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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)6080号 判決 1999年5月20日

甲事件原告

三井海上火災保険株式会社

被告

高木浩一

乙事件原告

高木浩一

被告

阿津坂完二

主文

一  甲事件被告は、甲事件原告に対し、金四七万三八〇〇円及びこれに対する平成八年一〇月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告は、乙事件原告に対し、金五二万六四七四円及びこれに対する平成八年七月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、甲事件乙事件を通じ、これを一〇分し、その七を甲事件被告兼乙事件原告の負担とし、その二を甲事件原告の負担とし、その余を乙事件被告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

甲事件被告は、甲事件原告に対し、金一三三万四五〇〇円及びこれに対する平成八年一〇月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

乙事件被告は、乙事件原告に対し、金三七八万三六三〇円及びこれに対する平成八年七月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、甲事件被告兼乙事件原告(以下「高木」という。)運転の原動機付自転車と乙事件被告(以下「阿津坂」という。)運転の普通乗用自動車とが衝突した事故に関し、<1>訴外三池物産株式会社との間で自動車保険契約を締結していた甲事件原告(以下「三井海上」という。)が高木に対し、商法六六二条一項(保険代位)に基づいて損害賠償を請求し、<2>高木が阿津坂に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成八年七月三〇日午前三時四〇分頃

場所 大阪市西区西本町一丁目二番一七号先交差点内(以下「本件交差点」という。)

事故車両一 原動機付自転車(大阪市西え二五六)(以下「高木車両」という。)

右運転者 高木

事故車両二 普通乗用自動車(大阪三三や八八九七)(以下「阿津坂車両」という。)

右運転者 阿津坂

右所有者 阿津坂

態様 出合頭衝突

2  三井海上の保険代位(阿津坂の損害について)

三井海上は、訴外三池物産株式会社との間の自動車保険契約に基づき、平成八年二月二八日、車両保険金として阿津坂車両の修理工場宛に一一八万四五〇〇円を支払った(甲四ないし八)。

3  損害の填補(高木の損害について)

高木は、本件交通事故に関し、自賠責保険会社から三四四万円の支払を受けた。

二  争点

1  本件事故の態様(高木の過失、阿津坂の過失)

(三井海上及び阿津坂の主張)

本件事故は、阿津坂車両が対面信号青色に従い本件交差点に進入したところ、高木車両が対面信号赤色にもかかわらず、これを無視して本件交差点に進入したために発生したものである。

(高木の主張)

本件事故は、高木が本件交差点の停止線より約一〇メートル手前で対面信号黄色を確認したが、停止線付近で安全に停止することは不可能であったため、本件交差点に進入したところ、交差道路の停止線付近で停止して信号待ちしていた阿津坂車両が対面信号が未だ赤色であるにもかかわらず間もなく青色に変わるであろうとの見込みで発進したために起きたものである。。

2  損害額(三井海上請求分)

(三井海上の主張)

(一) 阿津坂車両の修理費 一一八万四五〇〇円

(二) 弁護士費用 一五万円

(高木の主張)

否認する。

3  損害額(高木請求分)

(高木の主張)

(一) 治療費 一一七万八八三〇円

(二) 入院雑費 九万八八〇〇円

(三) 休業損害 一一九万円

(四) 後遺障害逸失利益 三〇万六〇〇〇円

(五) 入通院慰謝料 一七〇万円

(六) 後遺障害慰謝料 二四〇万円

(七) 弁護士費用 三五万円

(阿津坂の主張)

不知。

第三争点等に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  前記争いのない事実、証拠(甲二、一四、乙八、阿津坂本人、高木本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、大阪市西区西本町一丁目二番一七号先交差点内であり、南北方向の道路(以下「南北道路」という。)と東西方向の道路(以下「東西道路」という。)とがほぼ垂直に交わる交通整理の行われている交差点である。その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。南北道路は、五車線を有し、北行一方通行の規制があり、最高速度は時速五〇キロメートルに規制されている。東西道路は、片側二車線である。本件事故当時、南北道路の信号はいわゆる系統式であり、南から北へ順次青信号になっていくように制御されていた。

阿津坂は、平成八年七月三〇日午前三時四〇分頃、阿津坂車両を運転し、南北道路の第四車線を南から北に向けて時速約六〇キロメートルで走行していた。阿津坂車両は、先頭を走っており、その後方には、何台かの後続車両があった。本件交差点の手前では、対面信号は未だ赤色であったが、阿津坂は、南北道路の信号が系統式であることを知っていたことから、間もなく青色に変わることを予知し、赤信号の時に本件交差点に進入した。同じ頃、高木は、高木車両を運転し、東西道路の西行第二車線を東から西に向けて時速約三〇キロメートルで走行していた。高木は、本件交差点の停止線のしばらく手前で対面信号を確認した際、それが黄色表示であることに気づいたが、交差道路の対面信号が青色に変わるまでの間を利用してそのまま通過できると考え、本件交差点に進入した。本件交差点進入直前には、東西道路の対面信号は赤色になっていた。阿津坂は、本件交差点を通過中、右前方一〇メートルくらいのところを進行してくる高木車両に気づき、左にハンドルを切るとともに急ブレーキをかけたが間に合わず、別紙図面<×>地点において高木車両と阿津坂車両とが衝突した。阿津坂車両は同図面<3>地点に停車し、高木は同図面<イ>地点に転倒し、高木車両は同図面<ウ>地点に転倒した。

以上のとおり認められる。

三井海上及び阿津坂は、対面信号青色で本件交差点に進入したと主張し、阿津坂も本人尋問において、本件交差点の南側にある大きな交差点(西本町交差点)で、自車線の一五台くらいの後続車両、隣の車線の五台くらいの車両とともに信号待機した後、発進し、本件交差点には青信号で進入したと供述する。しかしながら、<1>阿津坂車両には後続車両が何台かあったところ、本件事故の結果、停止した阿津坂車両、転倒した高木車両及び高木によって南北道路の多くの部分が塞がれた形になっていたにもかかわらず、第二次事故が発生していないことに照らすと、阿津坂車両と後続車両との間にはある程度の間隔が空いていたと推認でき、阿津坂の供述内容には疑問が残るし、<2>東西道路の対面信号が継続して赤色を表示している状態(すなわち南北道路の対面信号が青色と予想される状態)でありながら東西道路から本件交差点に進入するのは、いかに事故発生時刻が深夜であるとはいえ自殺的行為であり、高木がそのような行動を採るとは考えがたい。

他方、高木は、黄信号で進入したと主張するが、後に認定するとおりの人身損害を被りながら、本件訴訟(乙事件)を提起する前には阿津坂に対して何ら人身損害の賠償請求を行っていないこと(高木本人)、阿津坂も本件交差点に進入する際には自らの危険を考慮するであろうから、著しい見込進入をするとは考えがたいことに照らすと、高木の右主張を採用することも困難である。

他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定の事故態様によれば、高木と阿津坂の過失は、四対六の関係にあると認めるのが相当である。

二  争点2について(損害額(三井海上請求分))

1  損害額(過失相殺前)

阿津坂は、本件事故により阿津坂車両につき修理費一一八万四五〇〇円相当の損害を受けたと認められる(甲五)。

2  損害額(過失相殺後)

前記の次第で六〇パーセントの過失相殺を行うと、損害額は四七万三八〇〇円となる。

3  弁護士費用

本件保険代位に基づく損害賠償請求において相手方に負担させるべき弁護士費用を認めることはできない。

三  争点3について(損害額(高木請求分))

1  損害額(過失相殺前)

(一) 治療費 一一七万八八三〇円

高木は、本件事故による治療費として標記金額を要したと認められる(乙三、五)。

(二) 入院雑費 九万八八〇〇円

高木は、少なくとも合計七六日間入院したから(乙三、四、弁論の全趣旨)、入院雑費として標記金額(一日あたり一三〇〇円)を要したと認められる。

(三) 休業損害 九七万一二六六円

高木は、本件事故当時、飲食店「伊吹」に調理師見習いとして稼動しており、月額一七万円の収入を得ていたところ、本件事故により、左大腿骨骨幹部開放骨折、右大腿骨遠位端骨折等の傷害を負い、平成八年七月三〇日から同年一〇月三一日までの九四日間は完全に休業を要する状態であり、同年一一月一日から平成九年二月二八日までの一二〇日間は平均して五〇パーセント労働能力が低下した状態であり、同年三月一日から同年八月二一日(症状固定日)までの一七四日間は平均して一〇パーセント労働能力が低下した状態であったと認められる(乙六、七、一一、一二2、一三、高木本人)。

以上によれば、高木の休業損害は次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 170,000×94/30+170,000×0.5×120/30+170,000×0.1×174/30=971,266(一円未満切捨て)

(四) 後遺障害逸失利益 二七万八五六二円

高木は、本件事故の結果、労働能力に影響する後遺障害として、左膝・左大腿部につき、自賠責保険に用いられる後遺障害等級表一四級一〇号に該当する後遺障害を残したものと認められる(乙一二2)。基礎収入としては、前記のとおり月額一七万円とするのが相当であり、労働能力喪失期間は右後遺障害の内容にかんがみ、三年間とするのが相当である。

そこで、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、後遺障害による逸失利益を算出すると、次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 170,000×12×0.05×2.731=278,562

(五) 入通院慰謝料 一六〇万円

高木の被った傷害の程度、治療状況等の事情を考慮すると、右慰謝料は一六〇万円が相当である。

(六) 後遺障害慰謝料 二四〇万円

高木の後遺障害は、前記左膝・左大腿部の神経症状(一四級一〇号)の外、外貌の著しい醜状(一二級一三号)があるから(乙一二1、2)、後遺障害慰謝料は、二四〇万円が相当である。

2  損害額(過失相殺後)

右1の損害額の合計は六五二万七四五八円であるところ、前記の次第で四〇パーセントの過失相殺を行うと、損害額は三九一万六四七四円(一円未満切捨て)となる。

3  損害額(損害の填補分控除後)

高木は、本件交通事故に関し、自賠責保険会社から三四四万円の支払を受けているから、前記過失相殺後の損害額から右填補額を控除すると残額は四七万六四七四円となる。

4  弁護士費用

相手方に負担させるべき弁護士費用としては五万円が相当である。

四  結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

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